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卒業制作:インスタレーション作品

『Oasis Japan』 コンセプト

  
                                                                                                                                 

 インスタレーション『Oasis Japan コンセプト


 

     はじめに

はじめに、なぜ陶芸でこの作品を作るに至ったのかと云うことについて話しておきたいと思 います。
本来このような大きなインスタレーションを作るのにクレイ(粘土)を用いることは、制作時間やコスト、
また運搬の面などから見ると決して適切な選択とは言えません。ある人にとってはもっと安価で軽量な
素材を使い、同じような作品を作ることができるでしょう。
しかしどうしてもクレイを使わなければならなかった理由があります。
それは私がファインアート・セラミックスに携わっていることがまず一つの理由としてありますが、
しかしもっとも大きな理由としてあるのは、この作品が持つ意味・コンセプトにそれが大きく
起因しているからです。

 

都市、社会、文化、歴史、人、そしてアイデンティティー。
私は日本という「国」をこれら六つに大別した要素の中に見ることができると考えました。
そしてその中の「都市」をまず考えてみた時、私達が生活する近代都市の姿というのは、
西洋文化の影響を悉く受けた結果の上に成り立つ姿、と言っても過言ではありません。
道路はアスファルトで舗装され、硬く冷たいコンクリートで固められた建物がどこまでも立ち並ぶ。
コンクリートジャングルと呼ばれて久しい日本の首都、東京の風景。
その人工的で画一的な都市空間をある超高層ビルディングの展望台から眺めたときに、
この大掛かりなインスタレーション作品を作ることを思いつきました。これはクレイでしか作れない。
この硬く冷たい都市の表層はクレイを使うことで表現できると考えたのです。
発想はまさにここから来ています。

 

■ 現代文化(Modern Culture

都市には人が住み、社会を形成しています。
そしてその中には文化が生きており、それは日々少しずつ形を変えて私達の生活の一部を成しています。
現代文化の一つを例に挙げればアニメや漫画、テレビゲームといった副次的文化(サブカルチャー)だったものが、
社会の中で主流と化している現実。
世界に向けた日本の代表的文化として、それらの認知も今や不動のものとなってきています。
またそれらが日本の伝統文化に取って代わろうとしている現実も直視しなければなりません。
都市に文化が生きている以上、文化が都市を支えているとも言えます。

私はその現代文化の代表格でもあるテレビゲームのいくつかからアイデアを得 て、
まずはこの作品への投影を試みました。



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ピースから成るこのインスタ レーションの作品は、その一つ一つに数個の四角い穴が開けられています。
これらは一方では都市を形成するビルディングの窓としての意味があり、また一方では落ちてくるブロックを
崩すことが目的の『テトリス』というテレビゲームの中に出てくるブロックとしての意味にもなっています。
さらに全体の丸みを帯びた形状は、クッキー(通称:ドット)を食べ尽くすことが目的の『パックマン』という
アーケードゲームに出てくる敵キャラ(モンスター)が発想の元になっています。
これら二つのゲームに着目した理由は、ブロックやクッキーを消す、といったどちらも消費を繰り返すことによって
得点していくという目的を持ったものだったからです。
消費を繰り返すというその目的を、私たちの人間社会の中で日々繰り返される消費行為に掛け合わせてみました。

 

     人間(Human-being

現代社会に生きる人々がしばしば例えられる事例として、人間のロボット化、機械化が挙げ られます。
本来人間という生身の生き物が、社会の中の一因子に例えられることがあります。
これはベルトコンベアーの流れ作業に例えると、人間が右から左へと順を追って生産される
プロダクトのようでもあります。

 

欠陥品は他に除外され、良品だけが世に出荷される。

個性を持つことはタブー視され、型にはまった画一的な思想だけが世に受け入れられる。

 

それは自己主張が乏しい人間の増加につながると同時に、精気のない、味気のない、
機械のような人間の量産につながる恐れもあります。
これらの打開策として社会が人間の個性を広く受け入れるような方向に変わっていかなければならないと私は考えました。
もちろん個性があれば何をしてもよいという訳ではありませんが、しかし人間の没個性を容認し、
また推進するようなことになってしまっては、もはや健全な社会を営むことはできないのではないでしょうか。


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ピースから成るこのインスタ レーションの中の一つ一つが、個性を失いかけている人でありその群集を表わしています。
多くの人たちが同じ色、同じ形、そして同じような表情で整えられた枠の中にきれいに整列しています。

 

     社会(Society

現在、さまざまな面で地域間格差が広がっていると言われています。
特に地方の貧困層が都市に比べて年々増えていると指摘されています。
地方から都市への人口流入も未だに減少の様子を見せず、地方の過疎化、そしてそれに伴う生産性の低下も
大きな社会問題となっています。
それと同時に都市の人口過密化が引き起こされていることも否定できません。
私はこれらの事象を踏まえて作品に取り入れることを考えました。


 


インスタレーションの中心に位置する丸い部分は都市を表し、その周りに広がる部分は地方 を表しています。
インスタレーションの全体を見れば、これは先に述べたように都市のビルディング群や人々を表しているものですが、
その一方で都市と地方という二者を対比する別の見立てにもなっています。
中心はその周りよりも背が高く、これは都市がさまざまな要因により肥大している様子を表しています。
そして作品表面に直線で描かれた幾何学的な模様は、今にも破裂してしまいそうな都市の危うさを
表現するために装飾したものです。
またレッドライトを使用することで、より一層その様子をダイナミズム的に表現しようと考えました。

 


次に、このインスタレーションの作品は全体で日本の国旗をあしらったものになっていま す。
紅白色は日本人が昔から好んで祝祭などに使用してきた伝統的な色であり、紅色だけを見ても、
私達が桜を愛するように潜在的に親しみを感じる色です。
これこそはまさに私達のアイデンティティーと呼ぶにふさわしいものであり、
それがわが国のもっとも象徴たる国旗に反映されていることから見れば、自ずと納得がいくことと思います。

 

■タイトル:『Oasis Japan

最後に、タイトルに『Oasis Japan』を選んだ理由を書きます。

 

大方の日本人はOasis(オアシス)の意味を砂漠の中にポツリと存在する木々が生い茂り、
水が湧き出る憩いの場所という風に理解していると思います。
しかし英語には意味の中の一つに少し違った訳があります。

(「a peaceful or pleasant place that is very different from everything around it.Longman American Dictionary

日本語訳では「その周りの他の場所とはまったく異なる平和で心地よい場所」、と言い表す ことができます。
これは砂漠の中のオアシスという意味だけに留まらない意味合いの言葉で、
広く他の物事に対しても適応できる、広義的に用いられる言葉です。
この言葉は僕にとって、これからの日本を想ったときに自分の素直な気持ちとして自然に受け入れることができた言葉でした。
それに今までは漠然としか感じることができなかったものだったのに、この言葉を前にしたときに
パッと鮮明にそれが実感できたのです。
“平和で心地よい場所”というキーワードは、私達全人類が普遍的に願い続ける理想であり、
それは日本に対しても私はまったく同じように想っています。
その願いの一つ一つが、果ては世界の平和に繋がることと私は想っています。

 

このインスタレーションにさま ざまな要素を詰め込んだことは、人々に日本の今の時代を考える
一つのきっかけになって欲しいとの願いからでした。
インスタレーションの全体を無数のビル群で表現したことは、ある人にとっては環境問題を考える
きっかけになるかもしれませんし、また日本の国旗からは母国というものの存在を再認識する
きっかけになるかもしれません。
この『
Oasis Japan』にはそういったさまざまなこ とを考えさせるための、
日本というオアシスの源泉が詰まっています。

齋藤宏幸
Hiroyuki Saitou
18,12,2007


【作品展示会の様子】